鬼の棲み処

普通な人「おーが」の記憶を逃がす場所、ただの備忘録

運命の時


「馬鹿な!マルコム、あんた達正気か?そんな誓い出来る訳ないだろ!」
「ふふふ…落ち着きたまえジョニー君。」


ジョニーと呼ばれた青年は、驚きと怒りの入り交じった表情のままイスから立ち上がり、後退りした。
テーブルの向こうには6人の家族が座り、その後ろに召使いが立つ。召使いの足下に寝そべる大きな犬が欠伸をした。
家族の長、マルコムが話を続ける。


「よく考えれば解る事だ。21世紀になってすぐ、この国は深刻な少子化が進み、22世紀の今や、少子化問題は世界規模までになっている。」
「それとこれとは別問題…」
「うふふ…家族愛よ。」


反論しかかったジョニーをマルコムの妻、スージーが遮った。


「元々家族は強いつながりを持つものなのよ?そこには無償の救いや慰め、全てを共有する楽しみがあって、愛に満ちあふれているのよ?」


スージーはマルコムを見つめると、視線をジョニーに戻し、ゆっくりと立ち上がる。


「だ、だからといって、人類全てが家族になる必要は無いし、大体家族になる誓いなんて必要ないだろ!」


ジョニーは落ち着かない視線で部屋を見回しながら、震える声で反論する。


「家族愛だなんて言いながら、裏切れば殺すなんて誓い…狂った宗教のする事だろ…。」
「誤解しないで?あなたが裏切ってもあなたをどうにかする訳じゃないの。家族の一員を失った家族が、その原因を『愛が足りなかった』と反省して、より愛し合う為の儀式なのよ。」


スージーは妖艶な笑みを浮かべたまま、ゆっくりとジョニーの方に歩きだした。
召使いが咳払いをした。


「私も躊躇したさ。スージーの姿が見えなくなった途端、愛するわが子、ナンシーとパティを食するなんてな。」


マルコムは隣に座る長女、ナンシーの頭をなでる。
そして視線をジョニーに移すと、笑みを浮かべて呟いた。


「だがね、それぐらい愛し合う必要があるのだよ、人類は。」


そして、うつむいてため息をつくと、勢いよく顔を上げ、声高に語りだした。


「だから


私はスージーの姿が見えなくなった途端、2人の娘、ナンシーとパティを食し、スージーは私の姿が見えなくなった途端、2人の息子、シドとスティーブを食す。
あの召使いのポールと犬のグレンも家族だ。だから、ポールの姿が見えなくなった時、グレンは私たち全員に襲いかかるよう仕込んだ。


これで我々家族は常に一緒に居て、愛ある生活、人生を送れるのだよ!」
「く、狂ってる…そんなものは理想でもなんでもない!狂人の妄想だ!!」


ジョニーは叫ぶと、口を真一文字に結び窓に向かって走り出す。


ガッシャーン!


建物の2階から敷地内の雑木林へ飛び出したジョニーは、地面に体を打ちつけながら、振り絞るように呟いた。


「…いけないんだ。絶対に野放しにしちゃいけない…。」


そして、よろよろと立ち上がると、雑木林の奥に姿を消した。




「…やはり解ってもらえなかったか。スージー、やはり時期が早かったんじゃないのかね?」
「大丈夫よ。この島から出る事は不可能でしょ?彼は誓いをかわすしか生きる方法がありませんのよ?」
「確かにそうだが…まぁ、ああいう男だから、味方にしておきたいんだがな。」


マルコムは葉巻に火をつけた。
犬のグレンと追いかけっこをしていた長男のシドが窓の外を指差した。


「お父様見てぇ、お外が綺麗だよ。」
「!!!」


マルコムは異様に明るい窓の外を見て驚いた。
この屋敷を囲むようにうっそうと生い茂る雑木林から、火の手が上がり、夜の闇を真っ赤に染め上げていたからだ。


「あの若造め!」


マルコムは叫ぶと、下の2人、スティーブとパティを抱え上げ、下の階へと走り出す。
スージーはシドの手を引き、召使のポールがナンシーを連れてマルコム達の後に続き、それをグレンが追う。


「くくく…マルコム、俺をこの島へ連れてきたのは逃げ場をなくす為だったんだろうが、それが裏目になったな。お前みたいな異常者が世界の表舞台に上がっちゃいけないんだ。そんな危険思想でこの世は救えないんだ!」


ジョニーの目の奥にはまともではない光が宿り、四方を包む燃え盛る炎を反射して人の物とは思えない、狂気に満ちた輝きを発している。
ジョニーは炎をくぐりながら、雑木林を駆け抜け、マルコムの屋敷を取り囲むように火をつけて回った。


「パパ…怖いよ。」
「大丈夫だ。彼もこの船着場には気付かんかっただろうが、ちゃんと逃げる準備は出来てるさ。」
「けれどあなた、こんな小さな船じゃ2人づつしか乗れないわ。しかも、子供達や、犬のグレンに船の運転は無理よ。」
「そうか…向こう岸まで渡って戻ってくるのに大した時間はかからないとはいえ、私達には『家族の誓い』があるからな…いや、どうこう言っても始まらない、これは神が我々に下した試練なのだ。この一見生き延びる方法などないような状況の中で、誓いを守り、生き延びてこそ世界を救えるのだという事だろう。」
「旦那様、全員無事に向こう岸までたどり着いた時、旦那様は神となり、シド様やナンシー様方は神の子になられるのですね…。」




果たして、神になるのはマルコムか、マルコムの布教を止めたジョニーなのか…。





家族の誓い
・マルコムが居ない時、シドとスティーブはナンシーに食べられる。
・スージーが居ない時、ナンシーとパティはマルコムに食べられる。
・ポールが居ない時、グレンは周囲に居る人間全てを食べてしまう。


船は大人しか運転出来ず、大人でも子供でも犬でも2人(匹)までしか乗れない。もちろん船はロープで手繰り寄せたり、自動で動いたりも出来ない。








いや、ココでえらそうに言うたものの、ググってみたら有名な問題やいうんが解ったもんやから、慌てて三文小説風に仕上げてみたんやが、巧い事いってへんのは明白やな《笑
ん?答え?
「父 母 息子 娘 犬」
でググれば出てくるよ。